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ブートレッグ考 [音楽]

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久々の今回は、ビートルズの「UNSURPASSED MASTERS(アンサーパスト・マスターズ)」というCDの話である。
聞いたことが無いタイトル? それはそうだろう。ブートレッグ(海賊盤)なのだから。

著名なミュージシャンであればあるほど、ブートレッグ(以降:ブート)は多数存在するようだ。
ミュージシャンにとって直接的な利益にならないブートの存在は頭痛のタネなのだが、我々リスナー、特に熱烈なファンにとっては普段聴けないレアな音源に接することが出来る魅力的なアイテムでもあるのだ。

ビートルズの場合、巷に氾濫しすぎたそれらのブートを駆逐する目的の一つとして、かつてアンソロジーシリーズを発表したのだった。
アンソロジーの中身の音源は、それまでブートとして出回っていたモノが殆どであり、しかもブートよりも格段に良い音質で編集されているため、その狙いは明白といえる。
じゃあ、アンソロジーが出たから、もうブートは市場に出回らないんじゃないか?・・いやいや、そうでもないようだ。
今回はそのビートルズのブートレッグについて、ちょっと考えてみたいと思う。

ひとくちにブートと言っても色々あるのだが、ビートルズの場合、未発表音源やアウトテイクは一般的だが、他にライブ音源やら無断で作ってしまったリミックス、公式曲を寄せ集めた全くのコピー物などが存在する。
しかも元々、非合法な製品であるため当たりはずれが存在し、どうしようもない粗悪な音源のものや中身は同じでラベル、ジャケット等の体裁が違うだけのもの、さらにそれらのコピーやリイシュー等があったりして、なかなか一筋縄ではいかない。
ジャケットがイケているからと、何も考えずに高いお金を払って購入し聴いてみれば、とんでもない○ソな音で思わず笑って(泣いて)しまった経験が少なからずあった。
しかし、「珠玉瓦礫に在るが如し」のたとえがあるように、中には素晴らしい高音質盤があったりする。
特にVol.1~10まであるといわれる「UNSURPASSED MASTERS」(略してアンサパ)シリーズや、同時期に出た「Ultra Rare Trax」シリーズは、それまであった粗悪なブートとは一線を画す程の高音質な音源だったのだ。

僕の持っているアンサパ・シリーズは一応、Vol.9まであるのだがオリジナルのモノでは無い。ANFソフトウェアという会社が出したコピーである。(オリジナル盤はその業界大手のイエロードッグ・レーベルだ。)
これらを購入したのが1990年代の初めの頃だったと思うが、当時はこうした著作隣接権モノについては比較的ゆるかったのだと思う。
何故かCDケースの裏ジャケに「JAS○AC」のシールがお墨付きのようにどーん!と貼ってあり、後ろめたくなく堂々と購入できるCDであることを誇示してある。
購入したのはCDショップでは無く、某大型書店だった。定価¥2600に対して¥1000以下だったと思うがとにかく格安で売られていた。
Vol.1~9まであったが、いずれもごらんのようにセンスの悪いジャケットで、それを見た限りでは食指が動くようなものでは無かったし、内容についてもとうぜん全く期待は持てなかった。
それでも安値につられてVol.2を試しに買ってみた。それが話題のアンサパのそっくりそのままコピーである事はもちろん知らずに。

そして次の日から、その大型書店に通い詰めて結局、棚に並んであるシリーズを全部買ってしまったのだった。
当然アンソロジーが発表される前だったこともあり、初めて聴くその内容と音質には驚愕した。
最も初期の頃のセッション(Vol.1)は、約40年も前の録音であることがにわかに信じがたいものだった。
そこにはレコーディングでのリハーサルの模様が収められているわけだが、アウトテイクや未発表曲の他に、4人の会話、演奏ミスによる中断、ギターの弦が切れる等のハプニングも入っていて、鮮明な音質と相まって生々しくもとても興味深い。
面白いのは、ミスによってテイクが増えると苛立つのか、カウントをとるジョージ・マーチン(ノーマン・スミス?)も怒鳴り気味にコールしている。
とにかく、本当によくこんな音源が捨てられずに残っていたものだ。「どうせこういうものは大したことないだろ?」と思っていただけに、そのカウンターパンチはあまりに強烈でそれまで抱いていたブートに対する悪いイメージは完全に覆されてしまった。


と、ここまで書いてくれば少し興味をもたれる方も居られるだろう。アンサパVol.2から選んで一曲サンプルをアップする。
(ただし音質を削るのと、曲は途中でフェード・アウトさせるので悪しからず。)


「A Hard Day's Night」は1964年4月のセッションで、テイク9まで収録された。公式曲となったのはテイク9で「アンソロジー1」に収められているのはテイク1である。対してアンサパVol.2ではテイク6とテイク7が収録されている。
ジョンのカウントで始まるテイク6は、途中で歌詞を間違えて中断する。
チューニングの後、テイク7に移行するが、どちらのテイクもジョンのワイルドなボーカルが魅力的だ。
公式テイクよりもスローテンポなのは、あえてピッチを遅めで録音してミキシングの段階で速めるという手法をとっているためで、これは当時の彼らの常套手段という事だ。
なお、この曲のセッションでようやく4トラックの録音機材が導入され、それ以前は2トラックの機材でまかなっていた。高音質とは言うものの当然現在とは比較にはならない。そんな時代の録音なのである。

現在では、オフィシャル・テイク以外のベスト・テイクと呼ばれるものは、ほぼアンソロジーに網羅されており、わざわざブートを購入しなくても容易に聴けるようになった。
あれだけ大々的に宣伝していたアンソロジーだけにその内容はよく練られていて、今までブートで聴いたどのテイクよりもさらに良い音質にさすがは公式盤と納得した。
だが、初めにアンサパやウルトラ・レアを聴いてしまっている僕にとっては、かなりの物足りなさが残ったのも事実。
というのも、さまざまなブート盤が出尽くしてしまった後での登場であり、さらに発売が予定されてボツになった幻のアルバム「SESSIONS」が既にブートとして出回っていた事などから、新鮮味は殆んど感じられなかった。
それと、かなり編集が加えられている点も気になった。アンサパもそれなりにいじられてはいるだろうが、アンソロジーほどでは無いと感じた。
素材の味を生かしたシンプルな料理か、調味料や香辛料をふんだんに使ってワンランク上の味に仕上げる。
どちらにしても問題はない。問題は無いと思うが、好みは分かれるところだ。


しかし、なんだかんだ言ってもアンソロジーが出たおかげで、ブートの市場は一段落してしまったかにみえた。
考古学レベルともいえる未発表音源の発掘も底を尽きたかに思えた。もうこれ以上新たな音源は出てこないだろう?
ところが、アンソロジー発表の95年以降、テクノロジーの発達によりブートは別の思わぬ方向に進んでいるようだ。
そして、そのあらぬ方向へ進んだ舵を修正し、集約するかのように発表されたのが「LOVE」だった。賛否両論の物議を醸し出す内容であったが解答としては意外に明快だったのかもしれないし、開き直った感もあった。

巨大化した産業として解散してもなお存在し続けるビートルズ。あらゆるものはビジネスに取り込まれていくかのようだ。
新しいモノ、未知なるモノ、新たな解釈は素直に歓迎すべきだと思いたい。しかしそれとは裏腹に混沌とした思いは深まっていく。。


つづく。(かもしれません;)

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雨水

放置が長くなって申し訳ありません。
仕事がやっと落ち着いたので、書きかけの記事を手直しして、アップしてみました。だけどやたら長くなってしまった。。こんな長文書くからダメなんですけどね・・
 ウチの地域では今日が終業式。子供たちは明日から夏休みで羨ましいところだけど、まあ毎日部活があるからね。暑いので大変です。
梅雨も明けそうで、なかなか明けないですね。
まあ、もうちょっと、ペースを上げてみますかねー。
by 雨水 (2008-07-18 15:15) 

ダッタン人

久しぶりのUPですね。

今日ちょうどビートルズのDVDを観ていたところで、タイムリーでもありました。
a hard day’s night と anthology3&4というやつです。

それにしても長文ですな。
読むのが一苦労だ!(笑)

ところで本文中に・・・、
>公式テイクよりもスローテンポなのは、あえてピッチを遅めで録音してミキシングの段階で速めるという手法をとっているためで、これは当時の彼らの常套手段という事だ。

とあるのですが、どんな効果があるのでしょう?
非常に興味があります。

それと彼らの肉声;
"i've heard a funny chord~."
と言うのが聞こえたり・・・。
こういうことが面白いですよね。
このあたりが英国人ですよねぇ。

またのUPをお待ちしております。
では、では・・・。


by ダッタン人 (2008-07-21 01:39) 

雨水

noricさん、niceありがとうございます。


ダッタン人さん、nice+コメントありがとうございます。
>それにしても長文ですな。
すいません。しかもしっかり読んで頂いたようでm(__)m

>公式テイクよりもスローテンポ
>どんな効果があるのでしょう?
手元の資料では記述が無いので確かな事はいえませんが、新たに4トラックの機材を導入した事によってボーカルパートとリズムその他のパートが分離し、試せる要素が増えたのだと思います。
それと、この曲はキーが高いため中間部をジョンが歌えず、ポールが代わりに歌っていることや、ジョージが間奏部をまだ巧く弾けなかったため、テープの速度を落としジョージ・マーチンのピアノを重ねた事なども関係があるとのでは?と考えます。

>それと彼らの肉声;
変なコードを弾いちゃったとコメントしてますね。その背後でポールがサビの部分を練習していたり・・・アンソロジーでは省略されている部分なので興味深いですね。





by 雨水 (2008-07-21 13:56) 

mina

更新を楽しみにしていました。
そして読み応えありました♪
アンソロジー持ってたけど、誰かに貸したまま戻ってこなくなってしまいました。
海賊版になぜお墨付きが!?
しかも書店で売ってるなんて。
私も知らずに何か購入してたり?
by mina (2008-07-25 08:40) 

雨水

ninaさん、コメントありがとう。
長ったらしい文章なのに読んでくれて感謝です。
アンソロジーは、CDの他にビデオ、本もありましたね。
本は、、A3位のでかいハードカバーの本で、ずっしりと重い。
買いはしなかったけど、値段相当高かったんじゃないかな。

ま、何年か前のネイキッドの時もそうだけど、定期的にプロジェクト組んで新作?を発表するんじゃないかなと思いますね。映画とかね・・

この海賊盤は書店で売っていたわけだけど、モノによってCDショップで普通に買えるものもある。あと中古屋さんとかね。
たしかポールが出したか公認の「公式海賊盤」なんてのもあったなー。
まぁ、集めだすとキリがないので、ちょっとしか持っていません;
by 雨水 (2008-07-27 00:30) 

イチロ

お久しぶりです。
アンソロジー久しぶりに聴きたくなりました。
ブートに関しては、僕はあまり肯定的ではありません。
それは、記録としては貴重かもしれないけれど、
制作者、アーティストの本意によって形成されるアルバムが芸術的価値を持っているからと思うからで、ボーナストラックとかアウトテイクをオリジナルのアルバムに追加して発売したりとかそういったものはちょっと抵抗がある場合があります。
でも、ファンの心理としては全部知りたいと言うのはあるんですよね。
ちょっと複雑です。
by イチロ (2008-10-11 21:08) 

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